抜管の基準、抜管時の注意点、抜管後の対応を解説!

医療

こんにちは。すぬ~です。現在救命救急センターICUで研修を行っています。

前回の挿管の投稿に引き続き、今回は抜管について解説していきます。

上級医から「○○さん今日抜管しよっか」って言われる事があります(本当は自分から言わなきゃなんですが汗)。このとき、先生はどういう考えの中で抜管できると思ったのか思考プロセスを知りたいと思ったので今回は抜管の基準や抜管時の注意点、抜管語の対応をどのように行っているか、自分の働く病院での経験も交えて説明していきたいなと思います。

参照するガイドライン・プロトコル

抜管の基準にはDAS(Difficult Airway Solution)の提唱する抜管ガイドラインがありますが、これは術後のガイドラインなので、ICU患者とは異なるかな…と思います。よければ下のリンクから参照ください。

 

当院には「急性期人工呼吸器離脱・抜管プロトコル」というものがあり、このプロトコルは2015年に発表された「人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル」を参考にしていますので、こちらのプロトコルを参考にしながら説明したいと思います。プロトコルはインターネットにも掲載されており、下のリンクからご覧になれます。

またこのプロトコルは急性期の患者に対するもので、気管切開患者などの慢性期患者には適応になりません。かなり細かい記述となっていますが、ご覧いただけると幸いです。

人工呼吸器離脱・抜管の流れ

抜管の流れには、簡単にまとめると以下の6項目を実施する必要があります。

  1. SAT、SBTの開始基準を満たす
  2. SAT、SBTの成功基準を満たす
  3. カフリークテストをクリアする
  4. リスク評価
  5. 抜管
  6. 抜管後の評価・介入

SAT、SBTなどについては後述します。

1.SAT、SBTの開始基準を満たす

SATの開始基準

SATとは自発覚醒トライアル(Spontaneous Awakening Trial: SAT)のことで、鎮静薬を中止もしくは減量した際に覚醒するか評価する試験のことです。

SAT開始基準は以下の状態でないことを確認します。1項目でも満たした場合は、SATを見合わせます。

  • 興奮状態が持続し、鎮静薬の投与量が増加している
  • 筋弛緩薬を使用している
  • 24時間以内の新たな不整脈や心筋虚血の徴候
  • 痙攣、アルコール離脱症状のため鎮静薬を持続投与中
  • 頭蓋内圧の上昇
  • 医師により開始できないと判断

SBT開始基準

SBTとは自発呼吸トライアル(Spontaneous Breathing Trial: SBT)のことで、人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるか確認するための試験です。

SBT開始基準は原疾患の改善を認め、下の①~⑤をすべて満たした場合、SBTを行います。基準を満たさない場合は原因を考え対策したうえで翌日再評価します。

①酸素化が十分である
・FIO2≦0.5 かつ PEEP≦8cmH2O のもとで SpO2>90%
②血行動態が安定している
・急性の心筋虚血、重篤な不整脈がない
・心拍数≦140 bpm
・昇圧薬の使用について少量は容認する
(DOA ≦ 5μg/kg/min、DOB ≦ 5μg/kg/min、NAD ≦ 0.05μg/kg/min)
③十分な吸気努力がある
・1 回換気量>5ml/kg
・分時換気量<15L/分
・Rapid shallow breathing index
(1 分間の呼吸回数/1 回換気量[L])<105 回/min/L
・呼吸性アシドーシスがない(pH>7.25)
④異常呼吸パターンを認めない
・呼吸補助筋の過剰な使用がない
・シーソー呼吸(奇異性呼吸)がない
⑤全身状態が安定している
・発熱がない
・重篤な電解質異常、貧血、体液過剰を認めない

2.SAT、SBTの成功基準を満たす

SATの成功基準

鎮静薬は中止または減量し行います。鎮痛薬(フェンタニル)は中止しなくてよいです。

1、2ともにクリアした場合成功、できない場合翌日再評価行います。

  1. RASS:-1~0(口頭指示で開眼や動作が容易にできる)
  2. 鎮静薬を中止し30分以上過ぎても次の所見(興奮状態、持続的な不安状態、疼痛コントロール不良、頻呼吸(呼吸数≧35回/分 5分間以上)、SpO2<90%が持続、新規不整脈の出現)がない

SBTの成功基準

条件:人工呼吸器PSVモードでFiO2≦50%、PEEP≦5cmH2O、PS≦5cmH2Oで30分行い(2時間以上行わない)、血液ガスを測定し以下の条件を満たせば成功となります。

失敗したら、SBT前の設定に戻し、原因を評価します。喀痰によるものが多い印象があります。ほかにも呼吸筋疲労、溢水などが挙げられます。

  • 呼吸数<30回/分
  • SpO2≧94%、PaO2≧70mmHg、P/F比≧200
  • 心拍数<140bpm、新規不整脈や心筋虚血の徴候認めない
  • 過度な高血圧なし
  • 呼吸促迫徴候なし

3.カフリークテストをクリアする

カフリークというのは文字通りカフから漏れ出る音のことです。カフ圧を抜いた時に音が聞こえないと、気道の通り道が狭いということを指し、気道損傷を起こすリスクがあります。方法を以下に示します。

  1. 口腔内、気管内吸引を十分に行います(誤嚥予防)
  2. 呼吸器設定を一時的にA/Cにします(PEEPは5cmH2Oに)
  3. カフを抜き、カフリーク音を確認します。この時、呼吸器の一回換気量が下がっている(2桁くらい)ことも確認するとよりよいです。

カフリーク音が聞こえたらクリアです。聞こえない場合は失敗とみなし、気道浮腫があると考えます。ステロイド投与(メチルプレドニゾロン 125mgを生食50mLに溶解し、2mL/hr持続投与)を行います。またIVC径を測定し溢水の有無を確認し、必要なら利尿薬を使用します。翌日再評価し、上気道狭窄の理由とリスクを評価したうえで問題なければ抜管とします。

4.リスク評価

抜管する前に必ずリスク評価を行います。リスク評価には上気道狭窄リスクと呼吸不全リスクがあり、両者を確認することが大切です。

上気道狭窄リスク因子

上気道狭窄のリスク因子は以下のような項目があります。リスクに該当する場合は慎重に抜管を行います。

  • 長期挿管(48時間以上)
  • 挿管困難症例
  • 大口径の気管チューブ使用(男性 8.5mm以上、女性 7.5mm以上)
  • 外傷症例
  • 女性
  • 上気道病変(咽頭喉頭腫瘍・膿瘍・頸椎術後など)

呼吸不全リスク因子

呼吸不全リスク因子には次のような項目があり、リスクに該当する場合は原則としてHFNC(ネーザルハイフロー)を準備する。

  • 咳嗽反射が弱い
  • 過度な気道分泌(1~2時間に1回以上)
  • 肺炎が理由で挿管されている患者
  • 65歳以上で基礎疾患に慢性心疾患または呼吸器疾患がある
  • カフリークテストの失敗歴

5.抜管

いよいよ抜管となりますが、抜管の前の準備は以下の通りです。

  • 誤嚥防止のため、経管栄養を6時間前から止める
  • 救急カート、物品の用意、再挿管の準備

抜管の手順は以下の通りです。

  1. 胃管内を吸引+解放(経管栄養を止めていた場合は不要)
  2. 誤嚥防止のため口腔内、気管内吸引を十分に行う
  3. 必要に応じたデバイス(HFNC、NPPV、酸素マスク)を用意する
  4. 吸引または純酸素加圧にて抜管
  5. 患者の上半身を上げ、気道狭窄音、呼吸音、バイタルサインの確認を行う
  6. 低流量酸素投与もしくはHFNC or NPPVの装着を行う

※HFNCを使用する場合は流量を50L/min、FiO2は抜管前と同じ設定で開始
※NPPVを使用する場合、モードは救急医判断、FiO2は抜管前と同じ設定で
※不要な酸素投与は避け、酸素流量などのweaningを進める

6.抜管後の評価・介入

以下の項目で評価を行います。1時間は注意して観察するようにしましょう。

  • バイタルサイン
  • 呼吸パターン(上気道閉塞パターンや呼吸筋疲労がないか)
  • 聴診所見
  • SpO2、モニターECG
  • 血液ガス評価(P/F比等、抜管30分後)

上記にて異常所見を認めた場合は救急医に報告し、以下2点を確認します。

  1. 追加検査(血液ガス、エコー、胸部X線、12誘導心電図)
  2. 介入(デバイス設定、再挿管、体位ドレナージ、リハビリなど)

最後に

以上で抜管の説明とさせていただきます。かなり長くなってしまいすみませんでした…抜管するにもリスク評価や呼吸設定が必要なので、大変かと思われますが大事なのは「抜管後も患者さんがしっかりと呼吸できるか」という点ですのでこちらを念頭に置けば問題ないかと思います。

機会がありましたら人工呼吸器のまとめもしたいなと思います。

今回は以上になります。ご覧いただきありがとうございました。

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